鍼灸治療の得意分野のひとつに自律神経失調症があります。
自律神経失調症は
自覚している症状があるのに検査では異常が見つからず
西洋医学では根本的な改善が難しいのが現状です。
辛い症状に対して対症療法として投薬が行われ
カウンセリングや生活改善、自律訓練法、呼吸法などの指導が
行われるケースもあります。
ひとりひとり異なる様々な要因が複合的に影響しあっているため
多角的なアプローチが必要となることが多いです。
鍼灸治療は他の治療やセルフケアと併用可能で相乗作用も期待できます。
選択肢の一つに加えていただきたいというおもいをこめて以下まとめました。
☆そもそも自律神経とは何か
・自律神経=からだが自律的に働く神経。
意思とは関係なく、呼吸・体温・心拍・消化・代謝・排尿・排便など
生命活動を維持するために無意識にはたらく神経。
・脳と脊髄から末梢に情報を運ぶ遠心性繊維は
交感神経と副交感神経の二種類にわかれる。
基本的に交感神経は機能を促進・刺激するアクセルの役割。
心拍数、血圧をあげる、筋肉を緊張させるなど
緊急事態に素早く対応できるようにする。
副交感神経は機能を抑制するブレーキの役割。
心拍数,血圧を下げる、消化活動を促進させるなど
身体をリラックスさせて休息モードにする。
☆自律神経のバランスを崩す原因
①精神的ストレス
(不安、恐れ、悲しみ、プレッシャー、怒りなど
ネガティブな感情)
②身体的ストレス
(寒暖差、気圧の変動、猛暑、酷寒、冬季日照時間の減少、騒音、
大気汚染・人工香料などの化学物質etc)
③生活習慣の乱れ
(不適切な食事内容や食事時間、運動不足、睡眠不足、昼夜逆転など)
④ホルモンバランスの乱れ
(月経・排卵、妊娠・出産、更年期などホルモン分泌の変化)
⑤薬剤の副作用
(服薬中の薬剤を見直すことで改善するケースがある)
⑥疾患
(自己免疫性疾患、感染症、腫瘍、神経疾患、代謝疾患など
様々な疾患が自律神経の乱れをひきおこすこともある)
☆自律神経の乱れが引き起こす症状
自律神経が乱れると その人が体質的に弱かった臓器を中心に
複数の臓器に症状が出現する。
複数の症状が3か月以上続き内臓の検査で異常が見つからない場合
自律神経失調症が疑われる。
・心臓…動悸、息切れ、不整脈
・血管…冷え、ほてり
・消化器…便秘、下痢、吐き気、消化不良、食欲不振、腹痛
・呼吸器…息苦しさ、過呼吸、胸の痛み、咳
・泌尿器、生殖器…頻尿、残尿感、ED,性欲減退、月経不順、月経困難症
・皮膚…多汗症、無汗症、皮膚の乾燥
・めまい、立ち眩み、ふらつき
・倦怠感、疲労感、睡眠障害、頭痛
・精神症状…イライラ、不安、抑うつ、パニック障害
・筋骨格…頸肩こり、背部痛、腰痛、手足のしびれ・痛み
☆鍼灸治療が自律神経に作用するメカニズム
・鍼灸の皮膚や筋肉への刺激は感覚神経から大脳へ向かうが
それだけでなく大脳の手前で脊髄や脳幹で折り返し
交感神経や副交感神経に伝わる。
この大脳を介さない無意識の反応=「反射」により
内臓の働きが調整される。
・基本的に 腹部・背部など体幹部への刺激は
脊髄後角から入り側核から出る交感神経を通って
内臓に働く。
一方で手足への刺激は脳幹に到達して脳幹から副交感神経を通り
内臓に働く。
このように 鍼灸治療では
刺激する部位によって反射経路の折り返し地点が異なることを利用して
自律神経を調整することができる。
→自律神経の不調和によってもたらされる
様々な症状の緩和、解消に治療効果を発揮する。
・外部からの物理的刺激や心理的ストレスをうけると
その情報は神経を介して脳の視床下部に到達する
→副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンが分泌される
→交感神経が活性化され副腎髄質から
アドレナリンやノルアドレナリンが分泌される。
※アドレナリン・ノルアドレナリン=ストレスホルモン
皮膚への強い刺激は交感神経を活性化させ
優しい刺激は交感神経を抑制することから
鍼灸治療によって交感神経を介して
ストレスホルモンの分泌をコントロールすることができる
→ストレスホルモンの過剰分泌にもとづく心身の不調を改善する
☆最後に
臨床では
自律神経の乱れが様々な症状につながり
その症状のつらさが精神的ストレスになり
更に自律神経の乱れを助長するという悪循環に陥っているケースに
よく遭遇します。
逆に症状が少しでも軽減されてリラックスできたり
現状がよくなっていくという希望をもてると
そのポジティブな感情によって
セロトニン、オキシトシン、エンドルフィンなどの
脳内物質が分泌されてより心身が楽になるという好循環がうまれます。
今回は鍼灸治療に限定して書いてきましたが
もちろんネオヒーラ―やアロマセラピーも有効な手段です。
これらを活用していただければと心から願っています。