鍼灸治療の得意分野として一番にあげられるのが

鎮痛作用(痛みをやわらげる、感じにくくする作用)です。

今回は鍼灸治療の鎮痛効果について解説します。

マニアックなうえ 文章力の拙さで読みにくいかと思いますが

ご興味のあるかたに 少しでもお役に立てれば幸いです

 

☆メカニズム

鍼灸治療により皮膚や筋肉に物理的な刺激が加わる

→痛覚と温度覚(感覚受容器)のセンサーにより

その刺激は電気的信号(インパルス)に変換され

末梢神経から脊髄を通りに到達する。

鍼灸治療の鎮痛作用は この

末梢神経・脊髄・脳の三つの場所で生み出され

相乗作用でより高い効果をもたらしていると考えられる。

 

末梢

①末梢ー軸索反射

※軸索=神経細胞の突起

鍼刺激により生じた電気信号の一部が軸索に入ることで

感覚神経が刺激され神経性の炎症が起こる。

→血管を広げたり物質を通しやすくする神経伝達物質が放出され

血流がよくなる

→血行不良による痛みを改善する

※筋肉のコリなど血管が収縮すると

血行不良により筋肉や血管の細胞が酸欠となり

組織が破壊されその修復のために炎症反応が起きる。

免疫細胞が集まり発痛物質であるブラジキニンやヒスタミンが

放出される。

壊れた組織からはプロスタグランジンなど発痛増強物質が作られる。

これらが感覚受容器に作用し電気信号に変換され脳に伝わり

痛みを感じている。

血行が良くなると痛みがあるところに停滞していた

ブラジキニン、ヒスタミン、プロスタグランジンが除去されるため

痛みをおさえることができる。

 

②末梢ー内因性オピオイド

※内因性オピオイド=体内で作られる鎮痛物質。

βエンドルフィンやエンケファリンなど。

痛みの原因となる炎症や組織の損傷が起こっている部位には

好中球・単球・リンパ球とよばれる免疫細胞が集まっており

鍼刺激によりそこに内包された内因性オピオイドが放出される。

放出された内因性オピオイドが感覚神経に作用すると

痛みの電気信号の発生がおさえられ鎮痛効果がもたらされる。

 

③末梢-腱紡錘ATPとの関連性

腱にある腱紡錘への刺激が

神経・脊髄を介して筋肉を弛緩させることで

前述した発痛物質が除去され鎮痛作用をもたらす。

 

④末梢ーATP

ATP(細胞の増殖や筋肉の収縮といった生命活動に関わる)と

特定の受容体による鎮痛作用との関連性を示す論文が

2010年、2012年に発表されている。

 

脊髄

①ゲートコントロール理論に基づく鎮痛のメカニズム

皮膚や筋肉で生じた痛みの刺激が脳に伝わる

通り道にある脊髄(背骨)。

ここに脳への痛みの伝わり方をコントロールするSG細胞があり

まるで門のような役割を果たしている。(=ゲートコントロール理論)

・痛みの電気信号は細く伝達速度が遅い神経線維を通りSG細胞のはたらきを抑制し

痛み伝達のゲートが開く

→痛みを伝達するT細胞が興奮して痛み信号が脳に伝達され痛みを感じる

・圧迫、さするなどの触覚による刺激は太く伝達速度の遅い神経線維を通り

SG細胞を活性化させて痛み伝達のゲートを閉じる

→痛みを伝達するT細胞への信号が抑制され痛みを感じにくくなる

・複数の刺激が同時に発生した場合 

 太く速度の速い神経線維からの信号が優先されるため

 痛みがおきている際 触覚刺激を与えると鎮痛作用がもたらされる。

 

②内因性オピオイドとの関連性

心理的ストレスや長引く痛み、ケガ、何らかの疾患により

痛みの信号を調整する複数の神経回路が混線したり

異常に活性化または活動低下がおこると痛みは増幅する。

(=慢性疼痛の一因)

鍼灸の刺激は脊髄後角の神経細胞から内因性オピオイドを分泌させ

神経回路の異常による痛みを改善する作用がある。

 

③サブスタンスPとの関連性

サブスタンスPとは痛みや炎症に関わる物質で

神経細胞にダメージをもたらす。

鍼灸の刺激はサブスタンスPの分泌を低下させ、慢性疼痛の緩和につながると

いわれている。

 

①下行性疼痛調整系(痛みを脳から抹消にむけ調整するルート)

・鍼灸刺激による電気信号は

脳の神経細胞から内因性オピオイドを分泌させることで

ノルアドレナリン系とセロトニン系の神経活動を高める。

→二つのルートで生じた電気信号により

脊髄後角でノルアドレナリンとセロトニンが分泌される

→両者は脊髄後角から脳に伝わる痛みの信号をブロックしたり

弱める働きがあり鎮痛作用がもたらされる。

・ノルアドレナリン系とセロトニン系の起点となる

中脳中心灰白質(PAG)の活動が低下すると

前述した下行性調節系が駆動しにくくなり痛みを感じやすくなる。

PAGの活動低下の一因として

不安や恐怖などの心理的ストレスによる扁桃体の活性化がある。

=鍼灸の刺激は慢性疼痛や痛覚異常を改善させる作用がある。

 

②自律神経

・心理的ストレスなどにより交感神経が興奮すると

筋肉の緊張から血流障害がおこる

→ケガ、病気、コリなどによって炎症がおきたことにより発生した発痛物質が

局所に滞りやすくなる。

→痛みが長引くことにより更に心理的ストレスが増すという悪循環になる。

・鍼灸刺激による電気信号は脳の視床下部に伝わり

交感神経の働きを低下させる。

→アドレナリンなどの興奮物質が減少し

血管が拡張して痛み物質が取り除かれる。

 

以上 鍼灸治療の鎮痛作用について神経生理学の視点から書きました。

学生の頃はちんぷんかんぷんだった神経生理学ですが

臨床を経て今回 色々な本を読み返したり文章にまとめてみると

大変興味深いです。

引き続き 鍼灸治療と自律神経、

鍼灸治療と免疫などのトピックで解明されつつある科学的根拠を示しながら

鍼灸治療の魅力をお伝えしていけたらと思います。

お読みくださりありがとうございます。